SSブログ

アリーからモンクへ アメリカの理想は変わったのか [jazz]


”Ally MacBeal”  邦題「アリー my love」。なぜか主だった音楽関係や職場の友人で見ていた人は皆無だった。写真は日本では2000年放映のシリーズ2の第18話のものです。この回は最高の出来で、バリーホワイトが出るお気に入りの回。昨日ヴィデオの整理をしていて偶然これが映ったのです。なんだか胸にこみ上げるものがあった。
 あの頃、毎日はジャズだった。ブレッカーもボブ・バーグも生きていてコピーしまくって。アメリカはいつか訪れることになるであろう遙か希望の地として輝いていた。アリーの働くボストンは、四季ごとに美しく描かれ、このドラマはドタバタはあったけれども主題はヒューマニズムだった。描かれていたアメリカの正義は目映かった。陪審員制度は「12人の怒れる男たち」以来、正しいものという確信を持って描かれ、それは繰り返すがヒューマニズムであった。正義が文学的であることを知った気がした。文学とは思想の科学だと思う。自然科学と違うのは便利な定理が少ないことと、結論を導き出すことに時間がかかることだろう。最近、妻子を惨殺された男性がテレヴィで弁護人や被告、司法制度まで糾弾する会見を目にする。本当に気の毒だが、正義とは何か、自分が立ち止まって考えられるのはアリーのおかげか。

 そして2001年の9.11テロ。そのとき崩壊したのは貿易センタービルだけではなかった。時を同じくしてアリーのシリーズがなし崩し的に終わってしまったのは偶然とは思えなかった。アメリカのヒューマニズムが崩壊したのだ。少なくとも自分の中ではそうだ。アメリカはおそらく死ぬまで行かない国になった。ジャズは死に(マイルスの死以来、既に死んでいたのだが)、悲しき玩具になった。日本はどうかというとニセ科学が横行する国になっちゃって。原発と一緒に自然科学まで崩壊しちゃってるけどさ。このことはいつかしっかり書いておかなくてはと思うけど、ばかばかしくてね。
 話は上の写真に戻るのだが、アリー(キャリスタ・フロックハート)のとなりに映っているのは、死の直後の植物状態の妻の腕を、離れがたいがために切断してしまった被告の男。彼は、トニー・シャルーブ、そうですモンクさんだったのです。
 ”Monk” 邦題「名探偵モンク」。これも今、シリーズ4が終わったところなのですが、なぜか友達はだーれも見ていません。モンクの精神科の主治医とアリーの主治医が同じキャストだということは気付いていたのだが迂闊でした。そういえば共通のキャスト、他にもいたなあ・・・。もしかしてアメリカの木下恵介アワーだったのか。でも名探偵モンクは最近のテレヴィ唯一の大ヒットです。
 強迫神経症のモンクがサバン的な記憶力、思考と推理で鮮やかに事件を解決していく傑作ドラマであります。(そういえばアリーの頃から急速に自分も精神科とは親しくなったのだが)。そこにはほとんどアリーに見られた複層的なヒューマニズムは描かれていない、自動車爆弾で死んだ妻を忘れられず、自己を見失い、ただ悪を憎む男が犯罪を解決していく話。しかしこのいわゆるアメリカ刑事物の特徴はその悲しみの描き方にユーモア(語源はヒューマニズムのことだったなあ)と自嘲があること。これは特筆すべきことだ。
 つまり、名探偵モンクのテーマが、テロの後遺症から立ち直ろうとしているアメリカ、それでも自分で悪と決めたら、あくまでも罰せずにはいられないアメリカであるとしたら・・・アメリカの作者おそるべし。本当にすごいことだが、これは考えすぎなのか。しかし、おそらくアメリカ社会を精神病理的に観測すれば正しい分析になるだろう。
 名探偵モンクにアメリカの最後の希望のともしびを見た、といったらオーバーですか。でも友よ、次のシリーズ並びに再放送は絶対見逃すべからず。アメリカ再生のカギは名探偵モンクにある(かもしれない)のだ。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 1

ゆき

弁護士アリーも名探偵モンクも、何故か日本では知名度が低いようですね。アメリカの映画は、お金はかかっているな、というのはわかるけど、良い作品だなあ、と思う作品にはめったに出会えません。(もっともテレビでちょっと見るだけですが・・。)この間、テレビでアランドロンの作品をやっていたけど、ものすごくくだらない感じで15分くらいしか見ませんでした。もはや時代が変わってしまったからなのか。昔は海外旅行も簡単には行けず、内容がどうこうより映画でヨーロッパの美しい風景を見ることも楽しみの一つだったのかも知れません。
それに比べ、アリーやモンクの風刺と正義感とパンチとユーモアにあふれるテレビ番組は本当に良くできていますね。一時間番組であれほど内容がぎっしり詰まっているのは驚きです。うつ状態の時は、これしかありません!ダーマ&グレッグという番組も痛烈でしたね。ああいう作品を創れる人は天才だと思います。モンクさん、最終回なんて困ります。また早く始まってほしいです。
by ゆき (2007-07-30 21:18) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。