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EADGHE 開放弦の重力 佐藤紀雄 内垣地寿光 ギターデュオ [Classic]

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 いつもアンサンブルノマドで現代音楽を楽しく聴かせてくれる佐藤紀雄さんのギターデュオを聴きに公園通りクラシックスに行った。ノマドでは指揮をされることが多く、なかなか普段は佐藤さんのギターをたっぷり聴く機会がないので楽しみだった。
 1曲目はグラナドス、『詩的ワルツ集』。この人の作品は原曲がピアノであるのだが、それが納得できない。ギターのオリジナル曲としか聞こえないし、ギター曲として有名な曲も多い。アリシア・デ・ラローチャのグラナドスは好きでこの曲もCDで持っているのだが、ギターで構想しピアノ用にアレンジしたとしか思えない曲が多い。一緒に行ったギタリストにそのあたりを聞いておきたかったのだが、ギター特有の開放弦の響きが魅力的に使われている。ギター用に転調しているのか。チューニングを変えているのか。どうなのだろう。(確認したらデ・ラローチャによるオリジナル版はAdurが基調だったが、BbもF#も派生している。ちなみにアンダールーサはまんまとEだった。)
 2曲目は現代イタリアのドメニコーニの『コユンババ』。これは純正ギターのための曲。耽美的で情熱的な曲である。スパニッシュ的に聞こえるのだが、実は中東の民族音楽が土台なのだそうだ。どうもクラシックギターを官能的に弾かれるとスペイン?という感じになる。この曲からさらに開放弦の重力という意識がわき起こってきた。EADGHEというのはギターの低音からの調弦だが、古今東西のギター曲は(特にネイティブな音楽であるほど)この低音部の開放弦をベースに曲が成立している(と思っている)。とくにボサノバなどは、ハイポジションな音に混入している意外な開放弦の響きが雰囲気を出している。開放弦という地平を音程が(指が指板を)跳ね上がり、やがて落ちてくる(強い解決)というのがギター音楽の本質ではないかと思えてきた。もしかしたらそんなこと当たり前だと言われるくらい常識なのかもしれないのだが、このコンサートで思いついたこと。
 3曲目は現代オランダのトン・デ・レーウの『間奏曲』。この人の曲はアンサンブルノマドのオランダシリーズでも取り上げられているので親しみがわいていた。佐藤さんが丁寧に解説してくれたのでとてもおもしろかった。セリー的なしくみでできている曲らしいのだが、先ほどの開放弦の重力ということが頭からはなれず、この曲はそのギター特有の重力をあえて断ち切った曲という印象を受けた。開放弦が現れるのはほとんどハーモニクスだけで、それはますます無重力や反重力という感じなのだが、逆にそのことで重力が想起される、そんな仕掛けなのではないかと思った。この2曲の対比は非常に興味深かった。
 4曲目はサラサーテの『サパデアード』。もちろんヴァイオリンの曲である。佐藤さんの編曲が冴えていた。自分で作っておいて非常に難しいそうだ。ヴァイオリンと言えばやはり開放弦との関係を思わずにはいられない。これも素人考えなのだが、ヴァイオリンとはヴィブラートのかからない開放弦を忌避する楽器なのではなかったか。ギターではもっとも倍音豊かな響きであえて多用される開放弦は、ヴァイオリンでは死んだ音の扱いをうけているのではないか。これは平均律の発達や伴奏楽器の進化、西洋音楽のグローバル化で、開放弦の響きを犠牲にして起こったことなのではないのだろうか。この曲でギターの開放弦はどのように利用され、または使われなかったのか。もう一度聴きたいものである。ロマの息吹が感じられる情熱的な曲であった。
 1曲目と4曲目は佐藤、内垣地のデュオだったのだが、ギター2重奏の「間」というものを非常に興味深く聴いた。ギター音楽に特有のリズムの揺らぎや間はその音のサスティン(継続)に関係があるのではないかと睨んだのだが、同席したギタリストに尋ねたら「そんなことはない」と不満そうであった。でもさらに追求すると、音が減衰していくことはある種の恐怖であることは確からしい。そして左手のポジションの移動、さらにアヤポンドとかアルアイレというギター教則本に出てくる初心者にとって恐怖の言葉。このあたりにもリズムの揺らぎと間は関係してくるのは間違いあるまい。それを生かしてこそのギター音楽なのだろう。そしてギター2重奏における「間」というものも非常に興味深かった。自分と相手の微妙にずれ、重なり合う「間」。これはききものであった。2人の間でリレーするアルペジオと同じくらいスリリングなものであった。
 あまりにも情報量の多いコンサートであったので2部はまたあとで。
(続く)
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